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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)1999号 判決 1956年4月27日

事実

原告(全東栄信用協同組合)は、被告会社の東京支店長が相原精一を受取人として振り出した四十五万円の約束手形を相原より裏書譲渡を受けたので、右手形の所持人として満期日に支払場所に呈示したが支払を拒絶された。よつて第一次の請求として被告に対し右手形金とこれに対する年六分の遅延損害金の支払を求める。而して仮りに本件手形の偽造であつて被告が振出人としての義務を負うものでないとすれば、本件手形を真正なものであると信じて割り引いた金四十三万六千七百二十五円並びにこれに対する利子を損害賠償として請求すると述べた。

被告(株式会社松風屋)は、本件手形は被告の東京支店の事務員川端信義が右東京支店と何の関係もない相原精一と共謀して、東京支店の記名ゴム印と銀行取引に使う印鑑とを盗用して振出行為をしたものであるから、被告は本件手形金支払の義務を負わない。また川端は被告東京支店の会計係員として会計雑務を担当していたことはあるが、手形小切手振出の権限を与えられたことはなく、支払予定表にもとづいて支払のための約束手形を振り出すことはあるが、それは常に支店長の指図を受けて川端らが手形に署名捺印の代行をするに過ぎず、結局本件手形は川端が偽造したもので、右偽造は被告会社の事業の執行とは何も関係なく行われたものであるから、たとえこれによつて原告が損害を蒙つたとしても、それは被告の「事業ノ執行ニ付キ」原告に損害を蒙らせたとはいえず、被告は損害賠償の義務を員わないと述べた。

理由

原告の第一次の手形上の義務の履行を求める請求については、本件手形が被告の東京支店に勤めていた川端信義によつて作成され、右川端が被告東京支店長に代つて右手形の振出行為をする権限を与えられていなかつたと認められる事実により、被告は本件手形について振出人としての義務を負うものではないから、被告にその義務の履行を求める原告の第一次請求は失当である。

第二次の不法行為による損害賠償の請求について、

原告は右割引のため金四十三万六千六百二十五円を出して同額の損害を蒙つたわけである。そして、それは川端が、相原において他で割引を受けることを知りながらほしいままに被告会社東京支店長振出名義の本件手形を作成して流通においたために生じたものである。即ち川端の不法行為によつて原告は損害を蒙つたのである。而して川端は右の行為を被告会社の事業の執行のためにしたのではないが、また単に被告会社の事業を執行するに際してしたというに過ぎないものでもない。被告会社のための手形小切手の作成、交付という職務を執行する過程においてその権限を乱用して行つたものである。かような行為は民法第七百十五条の立法趣旨にかんがみ、被告の「事業ノ執行ニ付キ」したものとして、川端の使用者である被告に損害賠償責任を負わせるに足る行為であるということができる。してみると被告は原告に対し民法第七百十五条により、原告の蒙つた損害の賠償として金四十三万六千七百二十五円と、これに対する完済に至るまで年五分の割合による金員を支払う義務を負うものとして、原告の第二次の請求は正当であるとこれを認容した。

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